一覧に戻る

コラム

超音波パルス(LIPUS)がもたらすインプラント治療への効果

2026/1/24


「インプラント治療は半年以上かかると聞いて、なかなか踏み切れない…」
「骨が薄いからインプラント治療は難しいと言われた…」
そんな悩みをお持ちの方に、ぜひ知っていただきたい治療法があります。

それが超音波パルス(LIPUS:ライプス)を活用したインプラント治療です。

超音波パルスは、もともと骨折の治療を早める目的で整形外科の分野で使われてきました。この技術をインプラント治療に応用することで、骨とインプラントの結合を促進し、治療期間を短縮できる可能性があるのです。

今回は、超音波パルスの基本的なしくみから、インプラント治療への応用研究、実際に期待できる効果まで解説します。

超音波パルス(LIPUS)とは?



超音波パルスは、正式にはLIPUS(ライプス, Low Intensity Pulsed Ultra Sound:低出力パルス超音波)と呼ばれます。これは、ごく弱い超音波を断続的に照射する治療法です。

冒頭でも触れたように、整形外科の分野では、骨折の治療期間を短縮する目的で、すでに広く使われています。1日20分超音波パルスを照射すると、骨折したところの治りが加速され、骨折が治る日数を40%ほど短くできるという報告があります。

欧州サッカーで活躍したデビッド・ベッカム選手が使用したことで、ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんね。

超音波パルスが骨の再生・修復を促進



超音波パルス(LIPUS)が骨の治りを促進するメカニズムは、まだ完全には解明されていません。ただし、現在の研究では次のように考えられています。

超音波パルス(LIPUS)の音圧が骨折部分に届くと、骨を作る細胞(骨芽細胞)が活性化されます。同時に、骨の土台となるコラーゲンの生成や栄養を届ける血管の新生も促されます。こういった骨に良い影響をもたらす作用の相乗効果により、骨の再生・修復が促進されるというわけです。

また、超音波パルス(LIPUS)を使った治療は、骨の生理的な特性を活かした治療なので、重篤な副作用は出にくいとされ、痛みもなく、時間もかからないという利点も備えています。

超音波パルス(LIPUS)のインプラント治療への応用研究

超音波パルス(LIPUS)で骨の代謝が良くなるのなら、それをインプラント治療に応用できれば、さらなる歯科技術の進化につながる可能性が出てきます。

実際に研究が進められているので、その成果をいくつか紹介しましょう。

オッセオインテグレーションへの効果について調査した研究



これまでも多くのインプラントコラムでお話ししてきたとおり、オッセオインテグレーションは、チタンと骨の結合現象のことで、インプラント治療成功のカギとしても大変重要なものです。

奥羽大学で行われた研究では、14匹のラットにインプラントを埋め込み、超音波パルスの照射がオッセオインテグレーションにどのような影響を与えるかを調べました。

すると、超音波パルスを当てた方が、早くインプラント周囲に骨の形成を認めたそうです。また、埋め込んでから28日目にインプラントを撤去したのですが、超音波パルスを当てたラットの方が、撤去に必要な力が大きかった(インプラントと骨の結合が強かった)という結果も出ました。

これらのことから、超音波パルスがインプラントの骨形成を促進したと結論づけています。

出典:中貴弘, 横瀬敏志, 「低出力超音波パルスがオッセオインテグレーションに及ぼす影響」, 日本口腔インプラント学会誌 (2012).

上顎洞挙上術(じょうがくどうきょじょうじゅつ)などへの効果について調査した研究



北海道医療大学では、ラットを使い、上顎骨の厚みが薄い場合に行われる上顎洞挙上術(じょうがくどうきょじょうじゅつ)への超音波の効果を調べる研究が行われました。

上顎洞挙上術とは、骨造成のコラムで解説した、ソケットリフトサイナスリフトなど、上顎の骨が薄くてインプラントを埋め込めない場合に、骨を補う材料を入れて厚みを増す手術のことを指します。



この研究では、超音波パルスを照射したグループとしなかったグループで、新しく形成された骨の量に明らかな差が認められました。

また、インプラントを埋入してから48時間から3ヶ月ほどの早い時期に仮歯を装着する、インプラント早期荷重という治療にも超音波を応用したところ、仮歯装着までの期間は平均7.7週、その成功率は97%となり、こちらも超音波の効果があったと考えられています。

出典:越智守生 他, 「生体物理刺激の口腔インプラント治療への応用」, 日本顎咬合学会誌 (2024).

糖尿病を患っていた場合の効果について調査した研究



続いて上海交通大学医学部で行われた、糖尿病のラットを使った研究をご紹介しましょう。

糖尿病の方もインプラント治療は受けられる?のコラムでも解説したように、糖尿病はインプラント治療においてはリスク要因となります。

この研究では、インプラントを埋め込んだ糖尿病のラットに超音波パルスを当てた場合と、そうでない場合について、マイクロCTを用いて分析し、比較しました。

すると、超音波パルスを当てたラットの方が、そうでないラットよりも骨の体積・密度・厚みの点でいずれも優位となる結果が得られ、それを踏まえて超音波パルスがインプラント周囲の骨形成を促進したと結論づけています。

出典:Wang Y, Cao X, 他 "Evaluate the effects of low-intensity pulsed ultrasound on dental implant osseointegration under type II diabetes", Frontiers in Bioengineering and Biotechnology (2024).

世界の論文をまとめた系統的研究



超音波パルスのインプラントの骨結合促進に関する世界の論文をまとめた研究結果が、2024年にProsthodontic Researchという研究会の雑誌に掲載されています。

これによると、超音波パルスは、健常者の骨結合だけでなく、骨粗しょう症や糖尿病といった、インプラントの高リスク患者の骨結合についても促進することが示されたそうです。

出典:Wang Y, Cao X, Shen Y, Xu C, 他  "Osteogenic effect of low-intensity pulsed ultrasound on peri-implant bone: A systematic review and meta-analysis", Journal of Prosthodontic Research (2024).

超音波パルス(LIPUS)の活用で期待できる効果

このように、現在、さまざまな研究から、超音波パルス(LIPUS)がインプラントに有益である可能性を示唆する結果が出ています。

これがインプラント治療に広く応用されるようになると、どのような効果が期待できるのでしょうか。

治療期間の短縮



インプラント治療で時間がかかるのは、インプラント体と骨が結合するのを待つ、前述のオッセオインテグレーションの期間です。通常、下顎で2~3ヶ月、上顎で3~6ヶ月ほどかかるとされています。

骨折治療で約40%の期間短縮が実証されていることを考えると、インプラント治療でも同様に、治療期間の短縮が期待できるかもしれません。

インプラント治療時には、食事や歯磨き、口腔内のケアなど、日常で注意していただかなくてはならない点も出てきます。インプラント治療全体の治療期間が短くなれば、こういった注意をしながら過ごす期間も短くなるため、QOL(生活の質)の向上にもつながります。

治療対象の拡大



これまでインプラント治療の対象外だった方も、インプラント治療の対象になるかもしれません。

骨の厚みが不足している場合、現在は、コラムでもご紹介した骨造成が行われています。骨造成術に超音波パルス(LIPUS)を併用することで、人工骨材の骨化がより効果的に進む可能性が広がるのです。

また、前述の糖尿病や骨粗しょう症(※)など、インプラントと骨の結合上のリスクとなるような病気の方も、超音波パルス(LIPUS)の効果で、しっかりした骨結合ができるようになる可能性があります。

(※)骨粗しょう症とインプラント治療については、インプラントと骨粗しょう症の関係性のコラムで詳しく解説しておりますので、併せてご参照ください。

即時荷重インプラントの成功率の向上



1日で歯が入るインプラント治療とは?のコラムでお話ししたように、即時荷重インプラントとは、インプラントを埋入したその日のうちに仮歯を装着する治療法です。

原則的に、オッセオインテグレーションによってインプラントと骨がしっかり結合するまでの間は、インプラントに負担をかけないことが望ましいのですが、従来の方法では、その間は歯がない状態で過ごさなくてはなりません。

即時荷重インプラントによる治療を行えれば、歯がない期間がほぼなくなるので、大きなメリットがあります。しかし、仮歯とはいえ、インプラントには負荷がかかっているのです。

ここで超音波パルス(LIPUS)を活用すれば、早い段階から骨形成がされ、インプラントと骨の結合も促進されるので、即時荷重インプラントの成功率を高めることにつながると期待されています。

超音波パルス(LIPUS)はインプラント治療の新しい可能性



超音波パルス(LIPUS)は、骨折治療で治癒期間短縮が実証されている技術です。この技術をインプラント治療に応用することで、骨との結合を促進し、治療期間の短縮が期待できます。

超音波パルス(LIPUS)がインプラントに広く応用されるようになると、インプラント治療の成功率が高くなるだけでなく、インプラントの適応外だった方が受けられる機会を提供してくれるようになるかもしれません。

インプラントオフィス大通では、これまでの実績ある治療法を大切にしつつ、北海道大学歯学部臨床教授を務める千田理事長のもと、インプラント治療の未来につながる、新しい可能性についても探求し続けています。

豊富な知見を持つ医療法人社団 千仁会専門医が患者さん一人ひとりにぴったりのインプラント治療を行いますので、骨の状態に不安がある方も、ぜひ一度札幌のインプラントオフィス大通にご相談ください。