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コラム

災害時のインプラントのケア方法

2025/9/9


日本は災害大国と呼ばれるほど自然災害が多い国です。内閣府の防災情報によりますと、実にマグニチュード6以上の地震の20%以上は日本で起きています。東日本大震災や、昨年元旦に発生した能登半島地震のことを鮮明に覚えている方もいらっしゃるでしょう。

もちろん地震だけでなく、ニュースで報道されるように、豪雨や積雪、土砂災害などにも悩まされることが多いのは、皆さんもご存じのとおりです。



日本に住む私たちは常に災害と隣り合わせです。防災意識の高まりを受け、非常食や水の準備をしている方も増えていますが、被災時のお口のケアについての備えは万全でしょうか?

「避難所で歯磨きができない…」
「インプラントがグラグラしてきたらどうしよう…」

もしもの時、大切な身体の一部であるインプラントをどう守ればいいのか、漠然とした不安をお持ちの方も多いはずです。

今回は、災害時にインプラントに起こりうるトラブル、限られた物資でできる応急のセルフケア、インプラントを使用している方のための防災グッズリストなどについて解説します。万が一の時に備え、正しい知識を身につけていきましょう。

災害時は口腔ケアが後回しに



冒頭でも触れたように、地震や風水害の多い日本では、いつ災害に巻き込まれ、避難所生活を余儀なくされるか分かりません。

災害が発生すれば、もちろん人命救助を最優先しなくてはなりません。断水や物資の不足も考えられます。このような状況下では、どうしても口腔ケアは後回しになってしまうでしょう。

しかし、口腔ケアをおろそかにすると、お口の中だけでなく全身の健康に影響を及ぼす可能性があるのです。

被災地や避難所での生活は、水や歯ブラシが不足することも多いため、以下のような疾病のリスクが高くなります。

お口の中が不衛生になると、口腔内の疾患だけでなく、全身疾患を引き起こす可能性も高くなってしまうので、決して軽視してはいけません。


※ドライマウスについては、提携医院であるポラリス歯科・矯正歯科口腔ジェル・口腔保湿剤の使い方のコラムをご参照ください。

災害時に起こりうるインプラントトラブル

天然の歯と比べて、インプラントは構造的に弱点も持っています。災害という特殊な環境下では、以下のようなトラブルが起こりやすくなるため注意が必要です。

インプラント周囲炎



まず挙げられるのが、インプラントコラムでもたびたびご説明しているインプラント周囲炎です。

インプラント周囲炎とは、インプラント周辺の歯茎が歯周病菌に感染し、炎症を起こす病気です。初期段階では痛みなどの自覚症状がほとんどありませんが、進行すると骨にまで広がり、インプラントを支えることができなくなって、インプラントの動揺・脱離を引き起こす原因になります。

インプラント周囲炎とその予防法のコラムでもご説明したように、インプラントは天然の歯と比べて感染に弱い傾向があります。その理由は次の2つの組織がないことによります。

歯根膜がない



一つは、歯と顎の骨の間にある薄い膜である歯根膜(しこんまく)です。歯根膜は、噛んだ時の力を吸収するクッションの役割に加え、細菌が骨へ直接侵入するのを防ぐバリアとしても機能しています。

インプラントにはこの歯根膜がないため、一度歯茎で炎症が起こると、それを食い止めることが難しく、顎の骨にまで広がりやすいのです。

歯髄がない



もう一つは、歯の神経や血管が含まれる歯髄(しずい)です。天然歯は、歯髄を通る血流によって免疫細胞が供給されるため、細菌への抵抗力を持っています。

しかし、人工物であるインプラントは血流が少なく、感染に対する防御機能が天然歯よりも弱いという特徴を持っているのです。

普段であれば定期メンテナンスでコントロールできていても、災害時にケアが不十分になると、汚れが溜まりやすくなり、痛みや腫れ、出血といった症状が急性化することがあります。

アバットメントのネジの緩み



インプラントに使われる材質の特徴を理解しようのコラムで解説したとおり、インプラントは、骨に埋め込む歯根部分(フィクスチャー)被せ物(上部構造)、そしてその2つをつなぐアバットメントのパーツで構成されており、多くはネジで固定されています。



災害時の強いストレスによる歯ぎしりや食いしばり、あるいは食生活の変化によって噛み合わせのバランスが崩れると、このネジが緩んでしまうことがあります。被せ物がグラグラする、噛んだ時に違和感があるといった場合は、アバットメントの緩みが原因かもしれません。

アバットメントについてより詳しく知りたい方は、インプラント治療の縁の下の力持ち!アバットメントの重要性とはのコラムをご参照ください。

上部構造(被せ物)の破損・脱落



避難時の転倒や、慣れない環境での食事(硬い非常食など)によって、インプラントの上部構造に予期せぬ強い力がかかり、欠けたり外れたりすることがあります。

もしパーツが外れてしまった場合は、以下の点に注意してください。

無理に戻さない

ご自身で無理に戻そうとすると、残ったアバットメントや歯茎を傷つける恐れがあります。

清潔に保管する

外れたパーツは可能であれば洗浄し、清潔な容器や袋に入れて保管しましょう。後で再利用できる可能性があります。

反対側で噛む

食事の際は、トラブルがあった箇所を避け、なるべく負担を掛けないようにしましょう。

歯ブラシがない場合の応急ケア方法

被災してしまい、歯ブラシや十分な水が手に入らない時に役立つセルフケア術をご紹介します。

少量の水が使える場合:水うがい



歯ブラシがない場合は、食後に少量の水(30ml程度)やお茶でブクブク・ガラガラうがいをしてください。

少量ずつ水を口に含んで吐き出すことを繰り返すのが良い
でしょう。このようにうがいをすることで、口の中の汚れを薄めてくれます。

水が貴重な場合:清潔な布やガーゼで拭き取る



タオルやハンカチやティッシュペーパーなどで歯の表面をこすって、できる限り汚れを取り除きましょう。完全にというわけにはいきませんが、これだけでも歯垢(プラーク)を除去することはできます。

キシリトールガムを活用する



もし、ガムを持っていたら活用しましょう。ガムの中でもキシリトール入りのものがおすすめです。

キシリトールは虫歯予防に効果的であり、唾液を出す効果も期待できます。唾液には、お口の中の汚れを洗い流したり、細菌の繁殖を抑えたりする自浄作用があるため、先述のドライマウスや口臭の予防にもなります。

災害に備えて事前にできること

災害はに対しては、日頃からの備えが重要になります。具体的にどのような準備をしておけば良いのか、お話ししていきましょう。

ポータブル口腔ケアセットの準備



防災リュックの中に、以下のようなオーラルケアセットを加えておきましょう。


  • 歯ブラシ、歯磨き粉

  • タフトブラシ、歯間ブラシ:インプラント周囲の細かい部分の清掃に必要です。

  • デンタルリンス(液体歯磨き・洗口液):水が使えない時に非常に役立ちます。殺菌成分配合のもの(例:コンクールF、GUMデンタルリンスなど)がおすすめです。

  • 清潔なガーゼ


ドラッグストアやネット通販で入手できるものとしては、コップ、折り畳み歯ブラシ、歯磨き粉がセットになった口腔ケアセットがおすすめです。かさ張らず、コップがあるのでうがいをすることもできます。

治療情報・保証書の保管

インプラントは保証書が発行されることがあります。保証書には、インプラントのメーカーや種類、保証期間や保証内容、適用条件などが記載されています。

書類や保証書は、原本だけでなく、スマホで写真を撮って保存しておくのも良いでしょう。万が一、かかりつけ医と連絡が取れない場合でも、他の歯科医院でスムーズな対応を受けやすくなります。

お薬手帳を常に携帯する



持病がある方はもちろん、服用している薬の情報は、緊急時の治療で非常に重要になります。お薬手帳もオーラルケアセットと一緒に保管しましょう。

定期的なメンテナンスでリスクを最小限にする



インプラントは定期的なメンテナンスが大切!のコラムでもお伝えしたように、インプラントを長持ちさせるためには、3ヶ月に一度の定期的なメンテナンスが必要です。

セルフケアでは取り除けない汚れを除去し、ネジの緩みや噛み合わせのチェックを定期的に行うことで、災害時にトラブルが起こるリスクを格段に減らすことができます。

大切なインプラントだからこそ、万が一への備えも忘れずに



災害時は、どうしても口腔ケアが後回しになりがちですが、インプラントは天然歯とは異なる特徴を持つため、注意が必要です。ケアを怠ってしまうと、大切なインプラントを失うことにもなりかねません。

今回のコラムを参考に、ぜひ防災リュックの中身を見直してみてください。歯ブラシや歯間ブラシ、液体歯磨きなどを加えるだけで、もしもの時の安心感が変わるはずです。

水がなくても、うがいをしたり、清潔なガーゼで歯を拭いたりするだけでも、お口の環境を維持することは可能です。

災害はいつ起こるかわかりません。日頃からの定期メンテナンスをきちんと行い、万が一への備えも忘れず、大切なインプラントを守っていきましょう。

インプラントオフィス大通では、最新の設備でのインプラント治療はもちろんのこと、その後のメンテナンスにも力を入れています。様々なお悩みに対しても丁寧にカウンセリングを行い、一人ひとりに合った対処法をご提案いたしますので、札幌でインプラント治療をご検討中の方は、インプラントオフィス大通にどうぞお気軽にご相談ください。


参考:厚生労働省 災害時のお口のお手入れについて