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コラム

ロボットによるインプラント手術の実用化はどこまで進んでいる?

2025/8/17


医療ロボットの活用は、手術や調剤、リハビリなど、様々な領域で進んでいます。では、インプラント治療ではどうでしょうか?

実はインプラント治療の領域でも導入されており、ロボットによるインプラント手術は、歯科医師をサポートし、計画通りにインプラントを埋入する先端の治療法と位置付けられています。

高い精度から手術の安全性を高め、術後の痛みや腫れを軽減できると期待されているのが、ロボットによるインプラント手術なのです。

今回は、ロボットによるインプラント手術がどこまで実用化されているのか、その最新事例を解説し、日本で普及するための課題や、いつ頃受けられるようになるのかという未来展望までご紹介します。

ロボットによるインプラント手術とは?



「ロボットが手術する」と聞くと、SF映画のような全自動の機械を想像するかもしれませんね。実際にはそのようなものではなく、現在のロボットインプラント手術は、大きくは手術をアシストする支援型全自動の自律型の2つのタイプに分けられます。

手術をアシストする支援型



一つのタイプはロボット支援(アシスト)型です。

これは、手術を行う主役はあくまで歯科医師であり、ロボットはその「腕」や「目」となって、手術の精度を極限まで高めるサポート役を担います。

術者がドリルを操作すると、ロボットアームが術前の計画と寸分違わぬ位置・角度・深さに誘導し、手ブレを完全に補正してくれるのです。

アメリカではYomi(ヨミ)というロボットがFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認され、すでに実用化されています。

完全自律型

もう一つが完全自律型です。こちらは、歯科医師が立てた治療計画に沿って、ロボットが自動でインプラントの埋入までを行います。

2017年に中国で臨床手術が成功し、世界的なニュースとなりました(Youtubeへリンク)。

ロボットだと安全?インプラント治療で期待されるメリット

安定して高精度な処置が行える



ロボット技術の最大の利点は、『安定した高精度な処置が可能になる』ということです。

人間の手ではどうしても避けられない微小なブレや角度の誤差を、ロボットは1ミリ以内の誤差で補正します。これにより、神経や血管を避けつつ、安全かつ的確にインプラントを埋入することができます。

骨量が少なくても無理のない治療が可能に



術前に3D画像をもとに正確なプランニングを行うため、骨量の少ない部位でも無理のない治療が可能になる点もメリットです。

これまで「骨の量が少ない(※)」「インプラントの埋入箇所が難しい」といった理由でインプラントを諦めかけていた方でも、治療を受けられる可能性が高まります。


(※)骨量が少ない際のインプラント治療については、インプラント治療における骨造成(骨増生)とはのコラムをご参照ください。

侵襲性が低い



手術の精度が高いため、歯茎の切開や骨を削る量を必要最小限に留めることができるのもメリットです。

結果として、手術時間の短縮や術後の腫れ・痛みの軽減も期待できるようになります。

ロボット手術と従来の手術との比較

精度の違い



インプラント治療の成功は、埋入するインプラントの「位置・角度・深さ」がいかに理想的か、にかかっています。

熟練した歯科医師の手によるフリーハンド手術も非常に高い精度を誇りますが、それでもわずかなズレが生じる可能性はゼロではありません。そのわずかなズレが、将来的な噛み合わせの不具合や、インプラントの寿命に影響を与えることがあります。

一方、ロボットによる手術は、上述のように、埋入位置の誤差は平均して0.6mm程度以下、角度の誤差も平均1〜1.6度程度に抑えられています。

まさに「人の手を超える精度」が実現されつつあるのです。このような高精度によって、インプラントが理想的な位置に設置しやすくなり、上に被せる人工歯の噛む力を均等に受け止められるため、インプラントそのものが長持ちしやすくなります。

侵襲性の違い



手術後の痛みや腫れが怖いという方は多いものですが、ロボット手術はこの点でも大きなメリットをもたらします。

先ほどもお伝えしたとおり、ロボットを使ったインプラント手術は、骨や歯肉を必要最小限にしか切開しない低侵襲手術が可能です。

メスを入れる範囲が小さければ小さいほど、肉体へのダメージは少なくなり、術後の痛みや腫れ、出血を大幅に軽減します。回復も早く、日常生活への復帰も早めることができるのです。

また、術中に神経や血管などを誤って損傷してしまうリスクも、ロボットの正確な位置誘導によって大きく減少します。

具体的な研究は今後に期待ですが、従来の手術と比べてトラブルの発生が減ることが予想されます。

ロボットによるインプラント治療の導入事例

中国・アメリカでの臨床応用と実績



ロボットによるインプラント手術の実用化は、すでに世界の一部地域で始まっており、特に注目されているのが中国とアメリカです。

先述のとおり、中国・西安では、2017年にロボットによる世界初の自律インプラント手術が成功しました。この手術は、歯科医師が事前に治療計画を立てた後、ロボットが人の介入なしに2本のインプラントを高精度で埋入したという世界初の事例として知られています。その後、研究開発が活発化しており、国産ロボットの商用化も進んでいます。

アメリカでは、支援型のYomiが複数の歯科大学病院やクリニックで導入されており、すでに多くの臨床実績を積み重ねています。Yomiは完全自律型ではなく、術者が操作する支援型ですが、非常に高い安全性と精度が評価されており、導入施設は年々増加傾向にあります。

日本国内での導入の可能性



残念ながら、2025年現在、日本国内の一般的な歯科医院でロボットインプラント手術を受けることはまだできません。

日本でのロボット技術の普及には、法律上の問題、導入費用や医療スタッフの研修体制など、まだ高いハードルがあります。

しかし、少子高齢化と歯科医療の質の向上ニーズを背景に、今後はロボット技術の導入が進む可能性は高いと言えるでしょう。

日本のロボットインプラント治療における課題と展望

乗り越えるべきコスト・技術・人材育成の壁



ロボットによるインプラント手術が今後広く普及していくにあたっては、いくつかの課題が残されています。

まず最も大きなハードルは導入コストです。ロボットシステムは数千万円単位の投資が必要であり、中小規模の歯科医院にとっては大きな負担となります。

また、海外で安全性が認められた医療機器でも、日本国内で使用するためには、厚生労働省による厳しい審査(薬事承認)をクリアしなければなりません。

次に、技術面での習熟人材の育成も課題になります。ロボットの操作やメンテナンス、術前プランニングに必要な知識を習得するためには、術者側にも高いスキルと時間的な余裕が求められ、これらをクリアするためには、専門機関での教育体制の整備も不可欠です。

こういった課題を一つひとつ解決していく必要があるため、日本での普及にはまだしばらく時間がかかるでしょう。

ロボット技術の発展と歯科医療の将来



一方で、これらの課題がクリアされた未来には、歯科治療を根底から変えるような、大きな可能性が広がっています。

例えば、AI(人工知能)による診断支援がさらに進化すれば、口腔内をスキャンするだけで、AIが骨の形や神経の位置を瞬時に解析し、インプラント治療計画を何パターンも提案してくれるようになるでしょう。

また、ロボットが歯科医師の手術を正確にサポートすることで、経験の浅い若手医師でも、熟練のベテラン医師と同じレベルの手術が可能になるかもしれません。そうなれば、都心でも地方でも、住んでいる場所に関わらず、誰もが最高水準の治療を受けられる、医療の均質化が実現します。

ロボット技術が普及した未来は、インプラント手術は特別な治療ではなく、当たり前の選択肢になる日もそう遠くないかもしれません。

今できる最良の精密インプラント治療を



技術は日々進化していますが、どんなに優れた技術も、それを使うのは「人」であり、治療を受けるのも「人」です。大切なのは、こうした最新情報を正しく理解したうえで、ご自身の希望や不安をしっかりと受け止め、最適な治療法を一緒に考えてくれる、信頼できる歯科医師を見つけることです。

インプラントオフィス大通ではロボット手術は導入していませんが、最新の設備のもと、医療法人社団 千仁会熟練の医師サージカルガイドを使用してインプラント手術を行います。

これにより、治療計画の再現性が高い、より精密な手術が可能になります。札幌で精度の高いインプラント治療をご検討でしたら、ぜひ一度インプラントオフィス大通へご相談ください。