インプラントによる神経損傷の症状と治療法について
2025/7/23
以前、インプラント治療で神経が傷つくことがある?のコラムで、インプラントによる神経損傷についてお話ししました。
インプラント手術は、安全性に十分配慮して行われるものですが、外科手術を伴うため、絶対にトラブルが起きないわけではありません。
インプラント治療で神経が傷つくことがある?のコラムでは、どのような神経が傷つく可能性があり、それを防ぐためにどうするかについてお伝えしましたが、今回は、インプラント治療時に起こりうる神経損傷の具体的な症状と、その治療法について解説します。
インプラント治療時に損傷する可能性がある神経とは?
インプラント治療時に、傷つく可能性のある神経は、三叉神経(さんさしんけい)の枝である上顎神経と下顎神経です。
三叉神経は、こめかみの奥にある三叉神経節という部分から3本に分岐するため、三つの叉(分かれ出ているという意味)と表されます。
上の図のように、三叉神経は眼神経、上顎神経、下顎神経の3つに分かれて、顔面に広く分布しており、顔の感覚(触覚、痛み、温度等)や物を噛む運動などをコントロールしています。
眼神経は額や上まぶたの感覚、上顎神経は下まぶたからその下方にある上顎や上唇、頬などの感覚、そして下顎神経は下顎や下唇、舌などの感覚を支配しており、詳しくは後述しますが、インプラントによる神経損傷が起きると、顎や舌のしびれが出るのは、上顎神経や下顎神経が関係する領域だからです。
下顎神経の損傷
インプラント治療で神経が傷つくことがある?のコラムでお伝えしたように、神経損傷を起こす可能性があるのは主に下顎になるため、まずは下顎神経の損傷について解説しましょう。
神経損傷を起こす可能性がある下顎神経は、下歯槽神経、オトガイ神経、舌神経です。
下歯槽神経を損傷した場合の症状
インプラント治療の神経損傷で最も多いのが、下歯槽神経の損傷です。
下歯槽神経が傷つくと、傷ついた神経の側にある下顎の前部分の感覚がしびれて、分かりにくくなります。
オトガイ神経を損傷した場合の症状
オトガイ神経が傷つくと、傷ついた神経の側にある下唇の一部やその下の感覚が分かりにくくなります。下歯槽神経の痺れの範囲と似ていますが、オトガイ神経の方がしびれる範囲が狭くなります。
舌神経を損傷した場合の症状
舌神経は、その名のとおり、舌の感覚を司る神経です。この舌神経が傷つくと、舌の前半分の感覚や、味覚がわかりにくくなります。
上顎神経の損傷
お伝えしたように、下顎神経の神経損傷と比べると、上顎神経の損傷の発生頻度はとても低く、上顎神経で神経損傷が報告されているのは、眼窩下神経(がんかかしんけい)という神経になります。
眼窩下神経(がんかかしんけい)を損傷した場合の症状
眼窩下神経が傷つくと、目の下や上口唇、上顎の前歯の歯肉の感覚が分かりにくくなります。
神経治療のタイミング
傷ついた神経を治療するに当たって最も重要なのが『時間』です。理想的なのは、神経の損傷を受けてから、つまり、手術を受けてから48時間以内です。
遅くとも1ヶ月以内には治療を開始しなければなりません。
もし、インプラント手術を受けた翌日になっても、しびれた感じが残っているのなら、すぐに手術を受けた歯科医院に連絡を入れるようにしてください。
神経がしびれる原因と治療法
炎症が原因の場合
インプラント手術を受けた後は炎症が起こり、腫れや痛み、出血などが起こります。この腫れや出血が神経を圧迫すると、圧迫された神経がしびれることがあります。
炎症による神経のしびれに対しては薬物治療が行われ、ビタミンB製剤をまず処方します。また、症状によってはステロイドを使ったり、神経ブロックを行うこともあります。
損傷が原因の場合
インプラント手術時に、神経自体を傷つけたり、切ってしまったりすると、神経のしびれが生じます。
この場合も、まず薬物治療から始まります。炎症の時と同様に、ビタミンB製剤やステロイドを使用し、神経ブロックも行われます。
その後、神経損傷の症状によって、神経を圧迫している原因を取り除く減圧術、神経を修復する神経縫合術や神経移植術などが行われます。
自然発症
これはインプラント手術後に、偶然同じタイミングで発症した神経のしびれです。神経自体はもちろん傷ついていません。
この場合は別の原因が考えられるので、脳神経外科や神経内科を受診することになります。
神経損傷を完全に予防できないのはなぜ?
神経損傷を防ぐことが難しい理由は、神経を術前に見つけ出すことができないからです。
神経は軟組織に分類されますが、現在の術前検査、例えばレントゲンやCTでは、骨や歯の形や大きさ、構造などは分かるものの、神経のような軟組織を見つけ出すことは非常に困難です。
このため、神経がどこを通っているのかが術前に完璧にはわからないため、神経損傷を完全に防ぐことは難しいのです。
下歯槽神経やオトガイ神経なら
ただし、下歯槽神経やオトガイ神経なら、ある程度その位置を知ることができます。
下歯槽神経やオトガイ神経は、下顎の後ろの方から下顎骨の中に入り、下顎管(かがくかん)というトンネルの中を通って、オトガイ孔というところから出てきて、下顎の先へ広がっていきます。
神経自体を見つけ出すことはできませんが、下顎管はレントゲン写真やCTで写し出すことができるのです。
このため、下顎奥歯のインプラントを予定している場合、下顎管の位置を術前に把握しておけば、少なくともこの部分で神経を傷つけることは避けられる可能性が高くなります。
ただし、下歯槽神経やオトガイ神経がオトガイ孔から出た後は、画像検査で見つけることはできないので、100%神経損傷を回避できるとは言い切れません。
神経損傷のリスクを可能な限り低くするために
今回は、インプラント治療時の神経損傷の症状や治療法について解説しました。お伝えしたように、神経損傷を完璧に防ぐことはできませんが、そのリスクを限りなく低くすることはできます。
リスクを可能な限り低くするには、インプラント治療をお考えの際、豊富な知識と経験を有する歯科医院を選ぶことが重要です。
インプラントオフィス大通では、北海道大学の歯学部臨床教授も務める千田理事長のもと、医療法人社団 千仁会の専門医が、最新の設備を使用して綿密な事前検査を行い、的確な位置にインプラントを埋入するために、患者さん一人一人に合わせて作製するサージカルガイド(ガイドサージェリー)を用いた精密インプラント治療をご提供いたします。
また、トップページでもお伝えしているように、インプラント症例検討会を行い、複数の医師により、治療計画を多角的に検討することも行っています。
インプラント治療をご検討中の方や、神経損傷のリスクが気になる方も、安心して札幌のインプラントオフィス大通へご連絡ください。